神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1924号 判決 1997年10月22日
兵庫県三田市南が丘二丁目一五番三五号
原告
株式会社三田屋本店
右代表者代表取締役
廣岡房江
右訴訟代理人弁護士
小野昌延
同
南逸郎
同
藤巻一雄
同
崔勝
同
畠田健治
同
山本雄大
兵庫県三田市駅前町三番六号
〔平成五年一二月二六日本店移転前の本店所在地 兵庫県神戸市北区長尾町宅原一一番地の二〕
被告
株式会社
はざま湖畔三田屋総本家
右代表者代表取締役
廣岡康禎
右訴訟代理人弁護士
山田一夫
同
平山茂
同
村林隆一
主文
一 被告は、その業務につき「はざま湖畔三田屋総本家」との表示を使用してはならない。
二 被告は、神戸地方法務局昭和六三年三月二日受付の商号「はざま湖畔三田屋本店株式会社」を「株式会社はざま湖畔三田屋総本家」と変更した商号変更登記の抹消登記手続及び神戸地方法務局受付の昭和五九年一一月二六日の商号「株式会社丸優三田屋」を「はざま湖畔三田屋本店株式会社」と変更した商号変更登記の抹消登記手続をせよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の周知営業表示
(一) 原告は、昭和五四年九月四日、「株式会社三田屋」との商号で設立された株式会社であり、昭和五八年八月八日、その商号を「株式会社三田屋本店」に変更した。
原告は、阪神地区を中心として、ステーキハウス等の飲食店を経営をし、自家製ロースハム等の畜産加工食品の製造販売業を営んでいる。
(二) 原告は、自己が経営する飲食店に「三田屋本店」という屋号を付し、自己の畜産加工食品に「三田屋本店」という表示を付しており、「三田屋本店」という表示(以下「原告表示」という。)は、原告の営業・商品の表示として、需要者である不特定多数人に広く認識されている。
2 被告の不正競争行為
(一) 被告は、昭和五六年一二月一〇日、「株式会社丸優三田屋」との商号で設立された株式会社であるが、昭和五九年一一月二〇日、その商号を「はざま湖畔三田屋本店株式会社」(以下「被告旧商号」という。)に変更し、神戸地方法務局昭和五九年一一月二六日受付をもつてその旨の商号変更登記がされた。
さらに、被告は、昭和六三年二月二〇日、その商号を「株式会社はざま湖畔三田屋総本家」という現在の商号(以下「被告商号」という。)に変更し、神戸地方法務局昭和六三年三月二日受付をもつてその旨の商号変更登記がされた。
被告は、阪神地区を中心として、ハム等の畜産加工食品の販売業を営むものである。
(二) 被告は、「はざま湖畔三田屋総本家」という表示(以下「被告表示」という。)を自己の商品表示として使用している。
また、被告商号中の「株式会社」という部分は、単に会社の種類を表す普通名詞にすぎず、実際に省略されることもあり、被告表示は、それ自体で、あるいは商号の要部として、被告の営業表示としても使用されている。
(三) 「はざま湖畔」は所在地を示すものであるから、被告表示のうち、営業・商品の自他識別・出所表示機能を果たす重要な部分は、「三田屋総本家」であり、被告表示は、「三田屋本店」という原告表示と類似している。
(四) 原告と被告とは、いずれも、畜産加工食品の販売業を営むものであるから、被告が、被告の営業・商品の表示として被告表示を使用することは、被告表示に係る営業や商品が、原告の営業や商品であるとの誤認混同を生ずる。
3 原告は、被告表示の使用によつて営業上の利益を侵害されているから、不正競争防止法三条に基づき、被告に対し、被告表示の使用の差止めを求めることができ、その差止請求に実効性を持たせるため、被告に対し、被告商号への商号変更登記の抹消登記手続を求めることができる。
ところで、被告商号への商号変更登記の抹消登記が行われた場合には、被告の商号が「はざま湖畔三田屋本店株式会社」に復することになるが、右2(三)及び(四)で述べたとおり、被告が「はざま湖畔三田屋本店株式会社」との被告旧商号を使用して営業を行うことも不正競争行為となることが明らかであるから、原告は、被告旧商号の使用の差止めを求めることもできる。
4 よつて、原告は、被告に対し、不正競争防止法に基づく差止請求権の行使として、被告表示の使用の差止め並びに被告商号への商号変更登記及び被告旧商号への商号変更登記の各抹消登記手続をそれぞれ求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実は認めるが、(二)の事実は否認する。
2 同2(一)及び(二)の事実は認めるが、同2(三)及び(四)の事実は否認する。
3 同3及び4は争う。
三 抗弁
1 被告表示使用に至る経緯
(一) 株式会社丸優食品(後に商号を「株式会社丸優」に変更した。以下「訴外会社」という。)は、昭和三五年三月に営業を開始した「広岡商店」を法人組織に変更するため、昭和四一年三月一日に設立された会社であり、畜産加工食品の製造販売等を業としている。
(二) 訴外会社は、遅くとも昭和五二年二月には「三田屋」の営業表示を使用し、昭和五二年七月末以降、「三田屋」の屋号でレストランをオープンしたり、「三田屋の手造りハム」との標章を使用して自家製ハムを製造販売するなどしており、原告が設立された昭和五四年九月四日当時には、「三田屋」の表示は訴外会社の営業・商品を指すものとして需要者に周知されていた。
(三) 原告の前代表取締役である亡廣岡償治(以下「亡償治」という。)は、訴外会社の代表取締役廣岡庸禎(以下「庸禎」という。)の弟であり、昭和四二年に訴外会社に取締役として入社し、昭和五六年九月までの間、訴外会社の取締役又は従業員として勤務していたが、その間に原告を設立し、「三田屋」の表示が訴外会社の周知表示であることを十分に認識しながら、「三田屋」を原告の商号の中に取り入れたものである。
(四) 訴外会社は、原告が訴外会社の得意先である高島屋に対し、訴外会社の商品は偽物で原告の商品が本物であると称して営業活動をしたので、これに対抗するため、訴外会社の販売部門を独立して会社組織(子会社)とすることとし、昭和五六年一一月二六日、被告を設立し(訴外会社と被告の代表取締役は同一人である。)、被告に対し、「三田屋」との営業・商品表示を使用することにつき承諾を与えた。
(五) 被告は、その後、需要者が原告と被告の営業を区別することができるよう、商号や営業・商品表示に「はざま湖畔」の表示を付加したものである。
2 右1のとおりであり、「三田屋」という表示を要部とする原告表示の使用は訴外会社に対する不正競争行為であり、原告は、訴外会社に対する関係で、適法に原告表示を使用することができない。これに対し、被告は、「三田屋」という営業・商品表示を使用することにつき訴外会社の承諾を得て使用するものであつて、被告表示の使用を原告に対抗することができる。
3 仮に、そうでないとしても、右1の事実関係からすれば、被告は、原告表示が周知性を獲得する以前から、「三田屋」の表示を含む営業・商品表示を使用していた訴外会社から、その事業(販売部門)を承継するとともに右「三田屋」の表示の使用権を得たものとして、不正競争防止法一一条一項三号に基づく先使用権を主張することができる。
4 仮に、先使用権が認められないとしても、右1の事実関係に照らせば、原告の本件請求は権利の濫用として許されない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1(一)の事実は認め、同1(二)ないし(五)の事実は否認する。
原告の経営する「レストラン三田屋」は、かつて「はざま湖畔」にあり、現在も湖畔にあるから、被告がその商号及び標章に「はざま湖畔」の表示を付加することは原告の営業との混同を助長するものである。また、被告は、その商品であるハムの包装や宣伝物に被告表示を使用する際に「はざま湖畔」を省略したり、小さく別行に書いたりしており、需要者に混同を生じさせようとしている。
2 同2は争う。
3 同3は争う。
訴外会社が使用していた表示は「三田屋」であり、被告が先使用権を有しているとしても、それは「三田屋」との表示についてである。
したがつて、被告は、「三田屋」とは同一性のない被告表示については、先使用権を主張できない(「はざま湖畔三田屋本店」との表示についても同様である。)。
また、被告は、原告が「株式会社三田屋本店」と商号変更した後に、それまでの「丸優三田屋」という原始商号を原告の商号に近似するように商号変更をしたうえ、被告表示を使用しているのであつて、その使用に不正の目的がないとは到底いえない。
4 同4は争う。
第三 証拠
本件記録中の書証目録に記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
第一 原告表示の周知性について
一 請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 証拠(甲七の1、2、3の1、2、4の1ないし36、5の1ないし29、6の1ないし36、7の1ないし17、8の1ないし17、9の1ないし5、10の1、2、11、12、13の1ないし4、14の1ないし22、15の1ないし7、15の14ないし16、16の1ないし15、17の1、17の2の1、2、17の3ないし9、18の1、2、18の3の1、2、18の4ないし6、19の1、2、20の1ないし4、21の1ないし5、乙一七ないし三一、三二の1、2、三三の1、2、三四ないし三六、三八、三九、四四)によれば、次の事実が認められる。
1 亡償治(昭和一九年生まれ)は、近畿大学農学部を卒業後、昭和四二年に訴外会社に取締役として入社し、訴外会社が行うハム製造の中心的役割を果たすようになり、さらに、訴外会社が昭和五二年七月末に三田市内でステーキレストラン「三田屋」を開業した後は、その店長となり、伝統工芸の三田磁器を食器に取り入れるなどの様々なアイデアを提供してレストランの営業を行つていた。
右レストランは、「はざま池」と呼ばれる池の傍らに位置する。
2 亡償治は、昭和五四年四月ころ以降、事実上、レストラン「三田屋」の営業を訴外会社から切り離し、これを自ら独立して経営するようになり、昭和五四年九月、レストラン「三田屋」の所在地(はざま池の傍ら)を本店所在地として原告(商号「株式会社三田屋」)を設立し、その代表取締役に就任した。
右レストラン「三田屋」は、ステーキハウスであるが、自家製の手作りハムを客に提供するという特徴を有しており、原告の事業展開は、会社設立の当初から現在まで一貫して、ステーキハウスの経営と手作りハムの製造販売を大きな二本の柱としている。
3 原告は、阪神地区の郊外を中心とする各地に、「三田屋」の営業表示を使用したレストランや直営販売店を開店し、「三田屋」との商品表示を付した手造りハム等の畜産加工食品を販売した。
4 原告は、昭和五八年八月にその商号を「株式会社三田屋本店」に変更し、以後、レストランの営業表示にも「三田屋本店」を使用し、手造りハムの商品表示にも「三田屋本店」を使用するようになった。
5 原告は、昭和六〇年ころには、直営店とフランチャイズ店を会わせてレストランを約二〇店、各地の百貨店に手造りハム等畜産加工食品の直営販売店を約一五店出店し、年間売上金額も三〇億円を超えるほどになった。
また、原告は、心身障害者を積極的に雇用したり、三田磁器の陶芸教室を開いたり、レストラン内でピアノ、琴、ジャズ等の生演奏をする等独自の営業活動を展開しており、昭和六〇年中には、このようなレストラン経営や手作りハムに関する話題が、「三田屋本店」という原告表示とともに、神戸新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞、日経流通新聞等の新聞紙上に頻繁に掲載されている。
6 亡償治は、昭和六二年八月に死亡し、その妻が原告の代表取締役となったが、原告は、その後も、関西地区を中心に東京等を含む各地にレストランを出店し、経営を拡大していった。
三 右認定の事実によると、原告は、昭和五八年八月の商号変更以降、ステーキハウスの経営及び手作りハムの製造販売の事業規模を着実に拡大させ、「三田屋本店」との原告表示による事業活動を展開し続けたものであり、昭和六〇年中には、原告表示は、飲食店経営及びハムに代表される畜産加工食品に係る原告の営業・商品表示として、阪神地区の需要者の間に広く認識され、周知のものとなったというべきである。
第二 原告の差止請求権について
一 請求原因2(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。
そして、「はざま湖畔」とは所在地を示すものであるから、被告表示のうち、営業・商品の自他識別・出所表示機能を果たす重要な部分は「三田屋総本家」(被告旧表示においては「三田屋本店」)であり、被告表示は「三田屋本店」という原告表示と類似している(被告旧表示についても同じである。)。
二 原告と被告とは、ともに、阪神地区を中心として畜産加工品の製造販売業を営んでいるから、被告が平被告表示を使用して営業を行うことは、被告の営業・商品が原告の営業・商品であるとの誤認混同を需要者に生じさせる不正競争行為(不正競争法二条一項一号)に該当するというべきであり、また、その不正競争行為により、原告表示が有する名声、顧客吸引力、出所表示機能、広告機能などが害され、原告の営業上の利益が侵害されることも明らかである。
したがって、原告は、不正競争防止法三条一項に基づき、被告に対し、被告の業務について被告表示の使用差止めを求める権利を有するというべきである。
三 また、「はざま湖畔三田屋総本家」との被告表示の使用差止めに実効性を持たせるためには、商業登記簿によって「株式会社はざま湖畔三田屋総本家」との被告商号が公示されている状態も変更する必要があると認められるから、原告は、不正競争防止法三条二項に基づき、被告に対し、被告商号の抹消登記手続、すなわち、被告商号への商号変更登記の抹消登記手続を行うよう求めることができる。
四 ところで、被告の商号変更の経過からすれば、単に、被告商号への商号変更登記の抹消登記だけがされた場合には、被告が被告旧商号に復し、現在は使用していない「はざま湖畔三田屋本店株式会社」との被告旧商号を使用して営業活動を行うという事態が予想されるが、右説示から明らかなとおり、被告が、被告商号への商号変更登記が抹消された将来の時点で、被告旧商号を使用して営業活動を開始することは不正競争行為に該当する。
そのような事態が生じた場合、結局のところ、本件で原告が求めている被告表示の使用差止めは実効性が確保されないことに帰するから、原告は、現時点において、被告表示の使用差止めの実効性を確保するため、不正競争防止法三条二項に基づき、被告商号への商号変更登記の抹消登記手続とあわせて、被告に対し、被告旧商号への商号変更登記の抹消登記手続をも求めることができる。
第三 抗弁について
一 抗弁1(一)の事実は当事者間に争いがなく、証拠(乙一、二、三の1ないし4、五、六1、2、七、一〇の1ないし3、一一、一二、一三の1ないし4、一四、一六ないし三一、三二の1、2、三三の1、2、三四ないし三六、三八ないし四一、四五の1、2、四六ないし五一)によれば、次の事実が認められる。
1 訴外会社は、亡償治の兄である被告代表者が昭和三五年三月に「広岡商店」の屋号で始めた個人事業を昭和四一年に法人化したもので、亡償治及び被告代表者を含む兄弟五人が、協力してその経営に当たっていた。
2 訴外会社は、昭和四六年ころ、三田駅前の直営販売店で「三田屋」の表示を付した手造りハム、ソーセージ等の販売を開始し、昭和五一年ころからは、近畿各地のスーパー、レストラン等に「三田屋」の表示を付したハム、ソーセージを販売し、昭和五二年二月には、「三田屋」との字句の商標について、指定商品を「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食品」とする商標登録出願した。
3 亡償治は、訴外会社が開店したステーキレストラン「三田屋」の店長であり、昭和五三年四月には、訴外会社に対し、レストラン「三田屋」を独立経営にしたい旨申し入れたが、これが拒絶されたため、原告を設立し、半ば強引に独立した。
訴外会社側は、結局は、亡償治らの独立を容認し、昭和五六年ころまでは原告とも取引していた。
4 訴外会社と原告とは、昭和五六年九月ころ、取引関係を断って対立するようになり、訴外会社は、百貨店に対する訴外会社のハム製品納入に関する原告との紛争を契機として、昭和五六年一一月二六日、子会社として「丸優三田屋」という商号の被告を設立し、被告に対し、「三田屋」との営業表示を使用することにつき承諾を与えた。
二 被告は、訴外会社の承諾により「三田屋」という表示の使用を承諾されたことをもって、被告商号及び被告表示を使用して行う営業が適法である旨主張するが、そのような承諾の事実があったというだけでは、不正競争防止法二条一項一号該当の不正競争行為に対する差止請求を排除する理由とはならない。
三 次に、不正競争防止法一一条一項三号所定の先使用権に関する被告の主張の当否について検討する。
1 弁論の全趣旨によれば、被告が、「はざま湖畔三田屋総本家」という被告表示の使用を始めたのは、被告商号への商号変更が行われた昭和六三年三月ころ、すなわち、原告表示が周知性を獲得した後であると認められるから、被告表示について先使用権が生じる余地はない。
2 被告は、原告表示が周知性を獲得する以前から、「三田屋」の表示を含む営業・商品表示を使用していた訴外会社から右表示の使用権を承継取得したとして、現に使用している「はざま湖畔三田屋総本家」という被告表示の先使用権の主張をする。
確かに、営業・商品表示は、その恒常性が重んじられる反面、時代や事業活動の変遷が生じた場合には、その変遷にふさわしい表示に変更されるべき要請も内在しているから、他人の周知表示と類似の表示でありながら不正競争防止法一一条一項三号に基づいて使用が許される先使用表示が存在する場合には、先使用表示と全く同一の表示でない限り、およそ先使用権による保護の対象から外れてしまうと解することはできず、周知表示出現後のある時点で、先使用表示の一部が変更された表示の使用が開始されたとしても、その変更によっても先使用表示との同一性が識別でき、かつ、不正競争防止法が意図する周知表示保護の原則を害しない限度では、なお、変更後の表示も先使用権による保護を受けることができると解すべきである。
3 しかしながら、「三田屋」との先使用表示と「はざま湖畔三田屋総本家」との被告表示とでは、外観、称呼が相当に異なっていてその間に同一性があるのかはかなり疑問である。
しかも、昭和五八年八月以降、原告が「三田屋」に「本店」を付加した「三田屋本店」との原告表示の使用を開始し、この原告表示が周知性を獲得した後になって、被告は、「三田屋」に、「はざま湖畔」という原告の本店所在地を意味する表示及び「総本家」という本店と類義の表示を付加した被告表示の使用を行っているのである。
4 このような表示変更の態様からすれば、「三田屋」との先使用表示の被告表示への変更は、周知表示である原告表示に近似する方向での変更であるといわざるをえず、現に被告が使用している被告表示が「三田屋」との先使用表示の延長線上にある表示であるとしてこれを先使用権の保護の対象とすることは、周知表示の保護と先使用表示の保護との調和を意図した不正競争防止法一一条一項三号の趣旨を逸脱するものといわざるをえない。
5 したがって、被告は、被告表示につき、不正競争防止法一一条一項三号に基づく先使用権を主張することはできない。
四 以上に説示のとおりであって、本件請求が被告にとって著しく過酷であって公平の観点から許されないとの事情は、何ら見当たらないから、権利濫用をいう被告の主張は理由がない。
第四 結論
以上の次第で、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰均 裁判官 島田佳子)